2017-11-23 異形の者 すでに女を知ってからの戦地での禁欲生活には死の恐怖がつきまとい、獣的なものが表面化されたが、この八十人の仲間の白衣からもれる男の体臭につつまれながら、白足袋をはいた足を組みあわせて天井を仰いだりしている白昼には、自分の若い皮膚の毛穴の一つ一つが、女に向って息づいているのを自覚する瞬間があった。その瞬間、私にとって、女性こそ極楽であったのかもしれなかった。 『異形の者』武田泰淳