第五十回目の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。
昨晩は激しい雷雨でしたが、今朝になって晴れ渡る良い天気となりました。
今回の課題図書は大江健三郎二十三歳のときの作品
『芽むしり仔撃ち』をみなさんと読んでいきました。
初大江健三郎という方も多く、その独特な文体に戸惑いつつも、
描写の迫力や美しさ、生生しさに魅せられたようです。
たとえば、
夜の森のふくれあがる豊かな香
とか
そして動きの失われた衰弱した村の家々、樹木、街路、それらをつつむ谷間の深い窪みを、柔らかく粉のように白っぽい朝の陽ざしがひたした。
残っているのは俺たちだけではない、と僕は小さい情感のふくらみを感じながら考えた。
「ああ」と僕は喉の奥であいまいな返事をしたが、その実、少年の引く線が形づくる一個の文字の美しさに感心していた。「李か」
僕は広い世界に一人ぽっちだった、そして愛が生まれてきたところだった。
雑木林のなかで李が大声で指図し、僕らはそれに従って気が遠くなるほど小鳥たちの声に聞きほれながら思いおもいの方向へ分散した。
僕は黙りこんで耳をすましている李が暗く澄んだ眼、きわめて民族的な朝鮮の人間の眼をしているのを見た。
時代や環境そのものに無自覚に染まって生きる人間とそれに抵抗する人間。
差別や暴力が剥きだしになっている時代と洗練され覆い隠されている現代との
対照など、この小説からさまざまなテーマが導き出されて話は尽きませんでした。
ご参加ありがとうございました。
次回7月はイアン・マキューアン『未成年』をみなさんと読んでいきます。