ここ鉄輪温泉にある明治から続く館、冨士屋さんの庭に、
毎年今の時期、樹齢200年を超えるウスギモクセイの花が 一斉に咲いて、
辺り一帯をあまやかな芳香に染め上げる。
私の家でも、毎朝窓を開けるとこの香りがやさしく部屋に入ってくるのを
この時節の愉しみとしている。
借景ならず借香とでも言うのだろうか。
金木犀、銀木犀、薄黄木犀。
たしかにここに咲く花は薄い黄をしている。
鉄輪の猫たちにもこの香りは届いているのだろうか。
香りは過去の記憶と結びつきやすいが、
この香りから想起するものは何もない。
町を歩けば、この香源が気になって頭を振って辺りを探す。
すばらしい。
彼の「いままわりにある文章はほんとうに個人のためにはたらいているのか」
という文章を思い出す。
課題図書にするための小説を何冊か平行して読む。
十二月は決まっているけど、十一月が決まりがたく悩む。
前後の課題図書とのバランス、リズム、季節、アクチュアリティなど、
総合的に鑑みて決定していく。
世の中が発狂しているので、あえて発狂した小説か、もしくは鎮静する小説か。
本は邂逅。よい冒険になりますように毎月企む。