かつて漱石先生は「草枕」の中で羊羹の色を讃美しておられたことがあったが、そう云えばあの色などはやはり瞑想的ではないか。玉のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを啣んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。クリームなどはあれに比べると何と云う浅はかさ、単純さであろう。だがその羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。『陰翳礼賛』谷崎潤一郎
声の文化を楽しむ、朗読部を開催しました。
今回は朗読のテキストとして選んだのは、
詩 「サーカス」中原中也
随筆「陰翳礼賛」谷崎潤一郎
の3作品でした。
どれも極上の声に出して読みたい日本語で書かれていて、
朗読の時間はとても贅沢なものとして感じられました。
普段の別府鉄輪朝読書ノ会では、作品を声に出して読むことはしませんが、
朗読部では声に出すことで初めて分かる作品のかたちというものがあり、
楽器のように声を身体に震わせて作品を味わうという体験もまた得がたく
深く魅了されるものがあります。ご参加ありがとうございました。