対話と人と読書|別府フリースクールうかりゆハウス

別府市鉄輪でフリースクールを運営しています。また「こども哲学の時間」など

意思から遠く離れて

 

 

 

 

最近、不登校の子どもたちの専門紙からインタビューを受けました。不登校の子どもたちもしばしば「意思が弱いから学校に行けない」と言われてしまいます。しかし、不登校の子どもたちも「学校に行かないことが自分の意思」とは言い切れないわけです。

 

行きたくないという「意思」があったのか、どうしても「行けない状況」だったのか、はっきりと線引きができない。それは、私たちの行為が意思によって一元的に決定されているわけではないのですから当然でしょう。そしてまた、意識は結果だけを受け取るようにできており、行為の原因を知ることが難しいわけですから、本人に不登校の明確な原因が分からないのも不思議ではありません。

 

 

『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』國分功一郎

 

 

 

 

 

 

月曜日

副代表のりんりんの親御さんと妹さんがうかりゆハウスに遊びに来たので、

鉄輪を案内する。

 

鉄輪は不思議な町。

かわいさもあり、地獄と呼ばれる苛酷な自然もあり、

行き場のない者が集まってきた地でもあり、

一遍上人の踊り念仏が花開いたパンクな場所でもあり、

冨士屋の安波さんはここで新しいことをするときに、

「鉄輪に聞いてみる」そうだ。

 

ここはもう住み始めて8年くらいになるけど、

魅力が尽きない。飽き性の私でも飽きない汲めども尽きせぬ源泉がある。

 

 

 

火曜日

生徒さんの学校を訪問。出席扱いや連携の話をする。

昔はフリースクールというのは学校の存在を否定するような、

いわば〈敵〉のようなもので非協力的だったらしいのだけど、

文科省の方針転換もあり、今は多様な学びの場として協力体制がとられることが

ほとんどだ。

 

 

 

それにして異様に蒸し暑い一日だった。

こういう日があると、あ、夏ってだるいなと思ってしまう。

どこまでも概念的に生きたく、そこにリアルを感じるのは、

たしか野口整体でも分類されていた種で、初めて知ったとき救われた感じがした。

 

 

 

水曜日

知床の海難事故について、うちの会社も同じように、

経済とリスクで経済の方を選んでいるという声を多く聞いた。

自分の命は営利企業に預けるということはどういうことなのか、

利用者に罪はないが、利用者もよくよく考えておかなければならないと思う。

 

安曇野でエココミュニティを開いているところにお邪魔したとき、

屋外活動で外に出る際曇り気味だったので、

ある人が主宰者に「傘は持っていった方がいいですか?」と聞いたら、

その主宰者はやや怒り気味に、「自分で考えて判断しなさい」と言ったのを思い出す。

 

この風で運行するのは安全なのかどうかを利用者に判断させるのは酷だが、

なんでもかんでも判断を営利企業に預けてしまうのは危険で場合によっては

命を落とすこともある。そのへんの嗅覚はもちろん私も含めて鈍っている。

 

 

 

木曜日

「絵本 de 考えるカフェ」を開催する。

落ち着きなく、席を離れたり坐ったりしているこどもに

最後感想を聞いたら、この絵本のテーマをずばり貫いた言葉が出てきて驚愕した。

じっと坐って礼儀正しく人の話を聞くというのは儒教から来ているのかもしれないが、

じっと坐って聞いていても、その本質が届いているかどうかは全く別の話で、

ただ単に大人の都合かもや知れぬとそのとき思った。

 

 

 

 

金曜日

GW。鉄輪温泉に県外ナンバーが増える。

富士山ナンバーを初めて見た気がする。

 

 

 

夜にオンラインで哲学カフェを開催する。

テーマは「大人はなぜお酒を飲むのか」だった。

良いテーマだなと思ったときは、いつも参加人数が少ないのが残念だが、

テーマもあり、お酒をちびちび飲みながら語り合った。

お酒の大人としての飲み方を私は誰かから教わったことはない。

でもある参加者は教えられたという。

 

 

 

土曜日

M氏と別府のおしゃべりなスプーンでタイマン対話。

 

哲学カフェ、哲学対話、あるいはこども哲学も参加者は、

そこに何を期待して参加しているか、当然ばらばらだ。

ごりごりの真理追究の哲学論議を望む者もあれば、

そのコミュニティの否定性のない空気が好きというのもあるだろう。

また好きだったコミュニティも、好ましからず人物が入ってきたために

行くのを止めたというのもよく聞く話。

もちろん参加を強制することはできないので、

自然とまた来たいなと思ってくれる場にしたいと思っているけど、

いちいち一喜一憂するのもきついものがある。

 

 

 

M氏からはジャック・ランシエールの『無知な教師』を勧められる。

 

 

「私は君たちに教えることは何一つないことを、教えなくてはならない」

 

 

 

 

日曜日

青山真治氏のオールタイムベストのサム・ペキンパーキラー・エリートDVDで。

20年以上前に見たはずだが、細部にもストーリーにも記憶がなかった。

確かにこれは人間の尊厳をめぐる映画だ。