名前のない海岸と名前のある私たち。
岸辺のない海に辿りつく
目的を失うと、すべてまわりの責任にする。「環境が悪い」「日本の文化度が低い」「社会が悪い」「マーケットが悪い」…そして、戦略を巡らし、外堀から埋めようとする。これではいつまでたっても自分の「質」と向き合えず、一流のアーティストとして生きられない。
アーティストとして生きること 宮島達男
最終スポットへ行く前に、寄り道をした。
気まぐれに名前のない海岸へ立ち寄った。
(後で調べたら向田海水浴場という名前だったけど)
マジックアワーの前に展がる茫漠たる空と海。
いまの時期はいつまでも日が落ちない。
渚の音は心地よく遠くに聞こえ、潮は入江のかたちにそって抗うことなく、
ゆるやかに向きを変え蛇行していた。
予定にない無為でゆたかな時間を過ごした。
この海辺の前では自分が何者であるかは必要ない。
近くに〈海辺と珈琲ことり〉という名前の喫茶店があった。
この素通りされるような、ちいさな場所を愛しているに違いない。
次は最後のスポットへ、つづく。