エッセー
日本史を一から学び直していて、歴史を学ぶということもまた、 個々の感性に大きく依存するというあたりまえの事実に驚かされる。 個々の感性のもようの違いにより、歴史は違った相貌を見せる、魅せてくれる。 歴史が分からなければ、今も分からない。 古代…
コンビニの無印コーナーにあった薄いグレーのペンをなんとなく買う。 このペンでスケジュール帳に予定を書き込むと、 なんというのか出来事性のインパクトが減って、とても心地がいい。 うっすらとその日の予定が見えるだけで、出来事の重さが消え軽くなる。…
いいところもあるんだけどな そんなことなんの自慢にもならない 「皆神山のこと」杉本真維子 OPAMでの朝倉文夫展 猫の流体に魅了された朝倉文夫 詩人の杉本真維子さんが詩集『皆神山』で萩原朔太郎賞を受賞した。 皆神山は神州いや、信州にある不思議なお椀…
最近無気力がちで口内炎がよくできて何処かしらに不調を感じていた。二つの大きな哲学対話のファシリテーションで燃え尽きたのかとも考えていたのだが、循環農法の赤峰勝人さんが何度も口にする「塩切れ」という言葉を思い出して、自然塩を意識的に舐めたり…
集英社のこの「コレクション 戦争×文学」のアンソロジーが好きで、 安価で手に入る機会を見つけては購入している。 母は美容師をしていて、仕事柄たくさんのお客さんと話をする。 そのなかには満州から命からがら引き揚げてきたお婆さんもいて、 引き揚げの…
陸から海へぬける風を 陸軟風とよぶとき それは約束であって もはや言葉ではない だが 樹をながれ 砂をわたるもののけはいが 汀に到って 憎悪の記憶をこえるなら もはや風とよんでも それはいいだろう 盗賊のみが処理する空間を 一団となってかけぬける しろ…
私は厠にいたため一命を拾った。八月六日の朝、私は八時頃床を離れた。前の晩二回も空襲警報が出、何事もなかったので、夜明前には服を全部脱いで、久し振りに寝間着に着替えて睡った。それで、起き出した時もパンツ一つであった。妹はこの姿をみると、朝寝…
お母さん、彼らは詩を書くのです。パウル・ツェラン なぜ、事の初めにはいつも光があるのだろう。ドリゴ・エヴァンスの最初の記憶は、教会の礼拝堂にあふれる太陽の光だった。彼はそこに、母親と祖母といっしょにすわっていた。木造の教会。まばゆい光、彼は…
在来工法の輝きは最初だけ 災害が起きると、みな声が弾む 宮崎駿 ポスターをフリースクールの壁に貼った。つねに問うてほしい言葉 もう十年以上も前のことになるが、安曇野で自然農を実践されている方の集まりに 参加したことがあった。 曇天で雨が降り出し…
二重の国で歌声が はじめてやさしく 永遠となる ——『オルフェウスへのソネット』リルケ 2023.7.14 いただいた葡萄とじゃがいもに見惚れて写真を撮る。 物質についてわたしはなにも知っていない。 いもの球体の向こう側、まわりこむ奥行きはどうなっているの…
コンコードの町へと続く線路端の斜面に、朝、霜が溶け出して現れる葉のような模様を擬した形態であると想像することは不当なのだろうか?さらにいえば、荘厳な黄昏時に赤い空の縁を流れてゆく雲の変幻自在な姿を彼の「日記」の文字がそのままに移しているの…
わたしは混乱を墓碑銘とするだろう キング・クリムゾン 2023.6.10 ジュンク堂大分店が来月で閉店のニュースを合同新聞で知る。 以前のフォーラスから今の地に縮小移転して、なんとか踏ん張ってきたが、 限界が来たのかもしれない。 リアルがなくなるというこ…
復古を待望した一部の先覚者、先進的な地域を除き、号令と共に一斉に訪れるべき朝はいまだ来たらず、たとえば木曽路がそうであるように、草莽の夜はまだ続いていたということ、そしてこの時空の差異が物語るように、広く時代のもたらす一貫はあれ、維新の理…
長野では公民館での活動が活発らしく、 「公民館をやる」という言葉が使われているらしい。 確かに公民館は図書館と違って本のような媒介があるわけでもなく、 動詞によってでしか捉えられない施設だと思う。 でもその動詞とそのつながりが一番欠けているの…
畝が湿っている時の安心感と言ったらない。その後に晴れて、畝の表面が乾燥してきているけど、指で穴をあけると、中がまだ湿っている時、それを確認するのが好きだ。こんなことが好きだなんて、僕は知らなかった。僕は好きなものが増えた。 『土になる』坂口…
「港に入ったと思っていたら沖に放り出されていた」 ドゥルーズがフーコーの仕事を評して使うライプニッツの言葉。 月曜日 ・よい仕事に出会えたこと ・よいパートナーに出会えたこと ・よい趣味に出会えたこと 人生この3つのうちどれか一つあればよい人生だ…
静寂はたましいの栄養だ そんな言葉が頭をよぎる。たとえば山の夜、雪が音を吸い取ってしんしんとした夜なんかに ある種の静けさと対峙するにはパワーがいる。裸の自分と向き合うのだから。それはたましいにとって、とても大事なことだ。この静寂と真摯に向…
あの美しい野草の名前を知りたい その草たちに囲まれ 休みたいと思っていた ここでもいいし この地球のどこか別の場所でもいい。 充分だというものはない そんな休息はない。 無邪気な小鳥たち 砂漠 朝顔が 選ばなければならない 慣れ親しんだものから離れな…
作家は、しだいに自分自身の言葉の機能を洗練してゆくことによって、あるいは、作家そのものの機能を純粋化してゆくことによって、小説を書くということを、自分が、世界にこういうふうに自分自身の内部に光をあてているんだと提示し、それによって読者とい…
小説はともかく、基本的に本は難しいものでした。それを繰り返し、ていねいに読んで、それまで知らなかった語彙を知り理解することによって、生きるための指針を得たり、必要なことを学ぶ。先生は難しいことを言うものであり、それを聴いて何を言わんとして…
こんな切れっぱしでわたしはわたしの崩壊を支えてきた 『水死』大江健三郎 2023.03.13-19 月曜日 大江健三郎の訃報をツイッターで知る。 未踏の地を歩くときに、かすかにいくあての目印となる星のような大きな大きな存在。 魂の問題をこれほどまでに文学の射…
谷々に、家居ちりぼひ ひそけさよ。山の木の間に息づく。われは うみやまのあひだ 釈迢空 2023.3.6-12 月曜日 河北秀也氏のいいちこ展の影響もあり、 フレスコモデルのいいちこ麦麹を呑んでみたら想定外に体にしっくりくる美味しさで 沼りそう。デザインも唯…
「たまには遊びにきてください」いいちこ 2023.2.27-3.5 月曜日 いい天気だった。 目に映る色彩に赤や黄色がはいってくる。 花粉症の不快感とは別に待ち望んだ季節の生のよろこばしさと直結す。 火曜日 花粉というものの不快感が気力を奪うことも。 水曜日 3…
不安と絶望を少しでも感じることがこの地上に存在できる最良の道だ。 「ゴダールの決別」 啐啄同時 学ぼうとする者と教え導く者の息が合って、相通じること。 鳥の雛ひなが卵から出ようと鳴く声と母鳥が外から殻をつつくのが同時であるという意から。 禅宗で…
コミュニケーションの重要性と厳しさとがこの本から伝わってくる。安易に対話という言葉が用いられる今日において、大変意味深いものである。そもそも他者と関わることとは、人間が生きていくうえで避けられないことであり、またごくありふれたことでもある…
瞑想のなかに平和がある。瞑想自体がその動きだ。それは発見されるべき目的地ではない。思考とか言葉によって組み立てられたものではない。瞑想の行為が知性だ。瞑想は、あなたがこれまで教えられてきたことや、経験してきたことではない。学んだり経験して…
毎朝見るたびに、はつとするほどその書が新らしい 高村光太郎「黄山谷について」 2023.1.30-2.5 月曜日 教えている生徒さんの字が突然上手くなって、 もちろん練習の成果であるわけだが、 自転車に乗れるようになるように、 ある日突然、それは訪れる感の方…
汗牛充棟(コトバンクより) 本が非常に多いことのたとえ。[使用例] その原書の由来と説明とは、いわゆるファウスト文献、一層広く言えばギョオテ文献があって、その汗牛充棟ただならざる中にいくらでもある[森鷗外*訳本ファウストについて|1913][使用例…
2013 涙の兆しはないが、景色からあふれてくるものに浸されている気がした。通夜の客に姿を変えて、故郷というものがあふれてくる、と思えた。 『鳥を探しに』平出隆 メカスは、自分にとってワールド・トレードセンターとは、北斎にとっての富士山のようなも…
Nagasaki , 2010 意拳は実際の組討の中で、往々にして「只一下(ただ一撃)」で戦いを終える。この意拳の奇異な現象を、多くの人は「奪力一摶(すべての力を振り絞って殴りかかる)」、「孤注一擲(すべて運に任せて一息に勝負に出る)」などと理解し、甚だ…