私は厠にいたため一命を拾った。八月六日の朝、私は八時頃床を離れた。前の晩二回も空襲警報が出、何事もなかったので、夜明前には服を全部脱いで、久し振りに寝間着に着替えて睡った。それで、起き出した時もパンツ一つであった。妹はこの姿をみると、朝寝したことをぶつぶつ難じていたが、私は黙って便所へ這入った。
『夏の花』原民喜
朝、8時15分
別府ではサイレンがひびいた。
黙祷する
子どもの頃「はだしのゲン」が好きで、学校の図書館にあったものを貪るように何度も何度も読んだ。何に惹かれたのか、その極限状態へか、わからない。数十年後大人になって広島の原爆資料館を訪れ、売店でふたたび「はだしのゲン」を手に取り、ギギギ・・とかグググ・・とかのオノマトペに魅せられ、この迫真性に魂をつかまれたのではと思い起こした。
中沢啓治には、ゲンが無限増殖したような〈平和マンガシリーズ〉がたくさんあって、小学校を卒業する前に全部読み得なかったことが今でも引っかかっているが、でもなんとなく今になってもまだ読んでいない。
でもいずれにせよ、もう「はだしのゲン」は読まれなくなるのだろう。
わたしは子どもの頃、夏休みの平和教育で「はだしのゲン」の漫画の断片が読めるのが楽しみだった。
広島原爆を生き延びたあるおばあちゃんが、恐ろしかったのは原爆よりもその後の人間の地獄のほうであったという言葉をいつまでも忘れないでいる。