とても車がないと行けない奥地に
その神社はある。
仕事で通るたびに気になっていたが
じっくり見たかったので休日に足をのばした。
ルーチョ・フォンタナのスリットのように
空間に裂け目が生じ、その隙間から光線が射せば
陰所(ほと)から出てくる原初の光景とおもえる。
この太陽がいつもの太陽と同じとは限らない。
細い道から見える光と景。
人間が配置したわけではない岩と岩のかさなりが
いかにも神寂びて岩窟のようなつくりになっている。
古代の人が祭祀の場にしたのもわかる。
とてもつめたく、怖さを感じる場所だ。
中の斎場はカメラには撮らなかった。
映画アンダルシアの犬で真横に引き裂かれる眼球においては
裂かれることで見えるものがあるのではないか。
そのとき世界が開闢するように。
バルトの表徴の帝国の表紙にも使われている西往寺の立像のように
あたらしく生まれる、生きながらにして。
被膜が裂け、あたらしく生まれる。
古いものは後方にさがる。
産道は細い。
スリットに光が射しこむ。
くぐるように歩く。
クグル、ググル?、ククル。
身を屈して、肩を狭めて通る。
この神社は白山系だから
祭神は菊理媛神(ククリヒメノカミ)になる。
神名の「ククリ」は「括り」の意で、伊奘諾尊と伊弉冉尊の仲を取り持ったことからの神名と考えられる。菊花の古名を久々(くく)としたことから「括る」に菊の漢字をあてたとも、また菊花の形状からという説もある。菊の古い発音から「ココロ」をあてて「ココロヒメ」とする説もある。他に、糸を紡ぐ(括る)ことに関係があるとする説、「潜(くく)り/潜(くぐ)る」の意で水神であるとする説、「聞き入れる」が転じたものとする説などがある。 白山神社(石川県鳳珠郡能都町柳田村)では、『久久理姫命(久々利姫命)』と表記している。なお、神代文字で記されているとされる『秀真伝』には、菊理媛神が、天照大御神の伯母であるとともにその養育係であり、また万事をくくる(まとめる)神だと記されている。
裂けるのは一回だけ。
その一回を何度も体験する場所。
ちなみにフォンタナの裂け目のある絵画には
「期待」という題名がつけられている。