「だまされてるの?」
「わたし? だまされてないよ」
そのあと妙な沈黙があった。
『星の子』今村夏子
第七十六回目の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。
今回とりあげた作品は『星の子』今村夏子でした。
新興宗教2世が題材となっていて、作品自体は2017年に書かれていますが、
安倍元首相銃撃事件を機に今回再読となりました。
対話のなかでは、実際宗教2世だった方の思いを聞きながら、
作品世界と照らし合わせて考えていく場面もありました。
作りものでない「リアル」な感じというものが、この作品にはありつつ、
根底には「優しさ」や「あたたかさ」が、でもいたるところに「不穏さ」も見出せる、
そんな両義的で決定不能な宙吊りの感じが、今村文学の魅力かもしれません。
日本の歴史を変えた銃撃事件以前の世界に戻るというのは難しく、
わたしたちもなにかしら歪んだ形でしか世界を見ることはできないので、
この作品の事件前の感想とは違ったものになっていると思われ、
文学の可能性としては収縮してしまったかもしれません。
ある参加者がこの物語を以前は宗教2世の物語とは読まなかったように、
愛というものはいびつでしかあり得ないものとして、
あるいは家族とは、とか「あやしさとは」といった問いもあったかもしれませんね。
今回むすびのさん特製メニューのテーマは「先入観」ということで、
青パパイヤ(おかずとして食べられる)やそうめん南瓜(南瓜だけどそうめん)、
冬瓜(実は旬は夏)といった食材で料理していただきました。
たいへん美味しかったです。
デザートはバジルのチーズケーキでした。
こちらも美味しかったです。
ご参加ありがとうございました。
次回は、かつては村上春樹の栄光の影に隠れ埋もれていた作家で近年評価が高い佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』同併録『草の響き』を読んでいこうと思います。