長い、露のやどった口ひげを撫でながら、彼はずしりと馬にまたがって、何か忘れものがあるか、言い足りないかといったふうで、目を細めて遠くのほうを見た。いちばん地平線や果てしない曠野のあちこちに聳えている物見や古墳が、いかめしく、ひっそりと見おろしていた。じっと音もなく立ちつくすその姿には、幾世紀もの歳月と人間への全き無関心とが感じられた。これからさき千年たとうが、何十億の人が死のうが、物見や古墳は相変わらず立ちつくし、すこしも死者を悼むこともなく、生者に興味を抱くこともないだろう。そうして誰ひとり、なんのためにそれらが立ちつくすのか、どんな曠野の秘密がその下に隠されているのかを知ることもないだろう。
『幸福』チェーホフ
2022.11.14-20
月曜日
新米が美味しくて、つい炭水化物を多くとってしまう。
別府の入り組んだ古くて細い道を歩くと、整然と整備された直線的な道よりも、
オーガニックな感じがして、より体に馴染みがある。
訪れたお家が、過去に自分と縁のあったお家だったことに驚く。
縁起と思念というものは、どういう関係なのかわからないけど。
火曜日
私用のため休み。
しかしながら、私用と公用の区別がいまいちなくなった。
水曜日
感情的な子どもほど実は論理的で曖昧さはなく明快である。
ただその「論理」の有り様が解明し難いものをもっているだけで。
テレビの取材要請がくる。
こども哲学や哲学対話の良さが世間によく知られますように。
木曜日
こどもたちとサッカーをしていて、ボールが思いも寄らない方向にバウンドして、体に当たったり、ドリブルで抜く際足と足がぶつかったりすると、泣いて怒り出す子もいて、サッカーという楽しさだけを体験したくて、痛みだけは悪なものとして除去したいのかもしれないけど、痛みもまたサッカーの一部であること知るためには、単純な善と悪という二項対立を超えた地平に立つ必要がある。
金曜日
駆け回る。
土曜日
畳を新調する。
い草の良い香りがすばらしい。
この香りをこどもたちにも味わって欲しい。
会うということの、ただそれだけの無償のものの、美しさを知った。
日曜日
オフの日なのかオンの日なのか、わからないけど、
自分の読みたい小説が読めた日はオフのように感じる。
サッカーW杯が開幕する。
いままで自分がよく知らないままに渇望しつづけた、
心の糧を手に入れる道が、 やっとそこに示されたような心地がする。カフカ『変身』