しかし遂に特攻と決まった事態に、私は興奮しないわけには行かなかった。夕食のあと暗くなった学生舎の岡の、構域の外がわにある崖の上から、向かいの岬の起伏にはさまれてにぶく光る細長い入江の海や、その手前の森のあいだに散見する漁村の家々のたたずまいを見おろしながら、胸は淡い痛みにしめつけられるようであった。炊煙がたなびき、子供と母親の呼応する声や犬の鳴き声などが聞こえてくると、日常が私の心中にむせかえるようにたちのぼり、もう戻ることはできないという断絶の思いにせつなさがこみあげてきた。めっきりその数を増した蛙たちの鳴き音にいくらかはなぐさめられながら、その冥想的な響きが、自分がえらんだふしぎな立場を神秘的に包みこんでくれるのだと感じたかった。
主催者の志水です。台風はなんとか無事に過ぎ去ったようです。
八月の別府鉄輪朝読書ノ会の案内をします。
◎8/25(日)午前10時00分~
隣町の日出にも人間魚雷回天の訓練基地がありました。八月はその人間魚雷を題材とした『魚雷艇学生』島尾敏雄(新潮文庫) を読んでいきます。
(内容紹介)
海軍予備学生として魚雷艇の訓練を受けながらも、実戦経験がないまま、第十八震洋特攻隊の指揮官として百八十余名の部下を率いる重責。特攻隊隊長として従軍した著者が、死を前提とする極限状態における葛藤を描く戦争文学の傑作。第38回(1985年) 野間文芸賞受賞作品
開場:別府鉄輪ここちカフェむすびの2F
費用:1200円(会場代、軽食・飲み物代込み)
参加条件:事前に『魚雷艇学生』を読み、その本を持参してください。
定員:12名
お申込みは以下ホームページよりお願いします。
↓