読書会
ぼくにわかっているのは、そこにいなければならないということだけさ。それがぼくの仕事なんだ。あそこにいなければならない。 『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン ついに別府鉄輪朝読書ノ会も八十回! 年明けての課題図書はブローティガンの『愛のゆ…
吾平は寝る時も枕元に算盤を置いた。ふと、商算がうかべば、人の寝しずまった深夜にも、まだ空が白まない夜明け方にもむっくり起き上がり、寝床の上に几帳面に端坐して、一心に算盤をはじいた。油垢に黒く光った算盤の上を、節くれだった太い指先が、飽くこ…
「阿呆たれ!大阪は人間でいうたらへそや、大阪商人が闇稼ぎしたら、日本中にほんまの商人無うなってしまいよるわ、大阪商人の根性はなあ、信用のある商品を薄利多売して、その労苦で儲けることや、大阪の根性も知りくさらんと、ど性骨叩きあげたろか、闇屋…
落ちついて考えて見ると、全く何も用事がない。行く先はあるが、汽車が走って行くから、それに任しておけばいい。 『第二阿房列車』内田百閒 11月の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 今回みなさんと読んだ作品は内田百閒『第二阿房列車』でした。 別府に…
私の座席の窓は曇らない。 内田百閒『第二阿房列車』 十一月の別府鉄輪朝読書ノ会の案内です。 今年は鉄道開業150周年とのこと。十一月はレールの繋ぎ目が刻む音を愛する究極の鉄ちゃん、内田百閒の『第二阿房列車』(新潮文庫)を読んでいきます。第一阿房…
その夜のランニングは六月にはじめて、走ることを命じられた夜に似ていた。 『草の響き』佐藤泰志 こんにちは。 十月の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 今回選んだ作品は佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』『草の響き』でした。 80年代のまだ「余力」のあっ…
◆「別府鉄輪朝読書ノ会 10.30 」十月は村上春樹と同い年ゆえにその栄光の影に隠れ、目立った文学賞を獲ることなく自死してしまった作家佐藤泰志氏の作品をとりあげます。没後30年、近年評価が著しく高まり、多くの作品が映画化されています。今回は『きみの…
「だまされてるの?」 「わたし? だまされてないよ」 そのあと妙な沈黙があった。 『星の子』今村夏子 第七十六回目の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 今回とりあげた作品は『星の子』今村夏子でした。 新興宗教2世が題材となっていて、作品自体は2017…
「教えてやる。おれとおまえ、将来結婚するんだよ」 「エッ」 『星の子』今村夏子(朝日文庫) ◆「別府鉄輪朝読書ノ会 9.25 」九月は新興宗教2世を扱った『星の子』今村夏子(朝日文庫)を読んでいきます。(内容紹介)林ちひろは中学3年生。病弱だった娘を…
待っている兵はいらいらしてきた。それほど彼等は若い女に接しなかったし、戦場に居ると不思議と女のことばかり考えるものであった。 『生きている兵隊』石川達三 八月の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 八月は毎年戦争文学を読んでいて、今年は『生きて…
残された熱気とともに夜へむかい、ゆっくりと沈んでいこうとしている夏の夕刻は、いろんなものがこんなにはっきり見えるのに、いろんなものがあいまいだ。懐かしさとか優しさとか、もう取り返しがつかないことやものたちで満ちていて、そんなもやのなかを歩…
七月の別府鉄輪朝読書ノ会の案内です。 ◆「別府鉄輪朝読書ノ会 7.31 」七月は生誕、出生や反出生主義について考えたいと思います。川上未映子『夏物語』(文春文庫)を読んでいきます。(内容紹介)大阪の下町に生まれ育ち、小説家を目指し上京した夏子。38…
あのどぎ、おらは見つけでしまったのす。喜んでいる、自分の心を。んだ。おらは周造の死を喜んでいる。そういう自分もいる。それが分がった。 『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子 六月の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 今回は『おらおらでひとりいぐ…
6月の「絵本de考えるカフェ」を開催しました。 大人と子ども、プラスオンラインで繋いで進めて行きました。 今回とりあげた絵本はブレイディみかこ作「スープとあめだま」。 私が読み聞かせをするスタイルで物語を朗読し、 その後、この作品についての感想や…
◆「絵本 de 考えるカフェ 6.22」(対面のみ)最後に絵本を読んだのはいつですか?忘れられない絵本はありますか?絵本の作品世界を味わって、そのテーマに込められた世界観を考え語り合いませんか?今回はホームレスや施し、夜回りについて大人もこどもも楽…
6月のイベント情報のご案内です。 すべて別府市鉄輪のフリースクールうかりゆハウスにて開催します。 参加希望者は、以下の申込みフォームより参加したいイベント情報を明記して ご参加ください。 参加申込みフォーム。icloud以外のメールアドレスでの申請を…
体をがむしゃらに動かすと、熱くて息苦しくて一枚また一枚と服を脱いで、真新しい仏壇の前で、真っ裸で踊っていた日を桃子さんは忘れていない。 『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子 六月はベストセラーになり映画化もされ、63歳で作家になった若竹千佐子…
あの朝に感じためまいにも似た感覚は、ずっと昔、小学校から帰るときに経験したのとおなじものだが、自分のもっともな思い出のひとつになっている。あれはいったい何だったのだろう?女の先生がぼんやりした様子で、ほら、そよ風よ、あれが見えないの?と言…
「満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。」 五月は以前この読書会で扱った川端康成の『眠れる美女』に着想を得て書いた南米のガルシア・マルケス最晩年の作品『わが悲しき娼婦たちの思い出』(新潮社)を…
絵本を読んで、そのテーマを深掘りし考える。絵本カフェを開催します☆ とき:4月28日(木)14時30分〜15時30分 ところ:別府鉄輪うかりゆハウス テーマ:「絵本 de 考えるカフェ」 一緒に絵本を読んで、考えることを楽しもう! えほん:『ほっきょくでうしを…
向かいのアパートで明かりのついている窓は三つだけ。さっきまで灯っていたのとは別の窓だった。あの窓のむこうでうごめいている人たちは、ヴィクトルのことになど何の関心もないだろう。できれば、この間の眠れない夜、目にしたあの女性の姿を見たかった。…
アラブ人にとって白は喪の色だといいます。 文字を奏でる鍵盤に指を持っていきながら考えた。 この世の生きとし生けるものには声があります。声は生きている証拠であり、幸せと哀しみの兆しでもあります。声は、大きくなることもあれば、途切れることもあり…
大分の情報誌月刊「セーノ!」4月号に、 別府鉄輪朝読書ノ会が朝活特集として掲載されました。 コンビニや書店で並んでいるので、ぜひ手に取ってご覧ください。
長い時間を、たった一人で過ごしてきたことに、自分が自分を哀れに思っているのだった。誰とも、何も分け合わなかった、この孤独が、自分の受けた罰かと思う。 『夜の谷を行く』桐野夏生(文春文庫) 三月の別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 今回取り上げ…
かつて漱石先生は「草枕」の中で羊羹の色を讃美しておられたことがあったが、そう云えばあの色などはやはり瞑想的ではないか。玉のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを啣んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑…
「じゃ、はっきり聞くよ。おばちゃんは、人を殺したの?」 『夜の谷を行く』桐野夏生(文春文庫) 三月の別府鉄輪朝読書ノ会の案内です。 三月は毎年東日本大震災に関連した作品を読んでいます。あさま山荘事件から50年。今回は女性側の視点から連合赤軍のそ…
が、みんなは自分の生活のことになると、「戦争」は戦争、「仕事」は仕事と分けて考えていた。仕事の上にますますのしかぶさってくる苛酷さというものが、みんな戦争から来ているということは知らなかった。 そう云えば、私は自分の生活に、全く散歩というも…
2月の朗読部を開催しました。 今回みんなで朗読した作品は ・「平家物語」 作者不詳 ・「悲しき玩具」石川啄木 ・「ごんぎつね」新美南吉 の3作品でした。 どの作品もそれぞれ固有の作品世界があり、 それを朗読として声に出して表現していくことは、難しさ…
側から母親がものを云って書かせた、自分の子供のたどたどしい手紙や、手拭、歯磨、楊枝、チリ紙、着物、それ等の合せ目から、思いがけなく妻の手紙が、重さでキチンと平べったくなって、出てきた。彼等はその何処からでも、陸にある「自家(うち)」の匂い…
一方の手の指で永遠に触れ、一方の手の指で人生に触れることは不可能である。 『金閣寺』三島由紀夫 今年明けて初めての別府鉄輪朝読書ノ会を開催しました。 今回の課題図書とした作品は三島由紀夫『金閣寺』。 三十歳の頃に書いた作品です。 観念と現実とを…